杜 世鑫・INAF研究員・グローバル国際関係研究所研究員
去る2021年3月27日～28日、石川県金沢市で一般社団法人・東北亜未来構想研究所（INAF）設立総会及び第一回国際シンポジウムが開催された。同研究所は、東北アジア地域協力と交流に関わる研究・交流活動を通じて、東北アジアの未来に向けたビジョンを構想し、それに相応しい現実的な研究や調査など諸活動を行い、この地域の発展に貢献することを目的として、2020年10月1日に石川県金沢市にて法人として登録し活動し始めた。
今回の設立総会と国際シンポジウムには、同研究所の役員（理事・顧問など）や研究員を中心に、日本各地から30名の学者や専門（日本、中国、朝鮮、韓国、ロシア、モンゴルなど6カ国出身者が含まれる）が出席し、東北アジア地域協力をテーマに研究・交流を行った。国際関係や国際経済の専門家と若手研究者達の、報告と討論が行われた。
午前中の開会式では、INAF理事兼所長で本研究所の発足人である李鋼哲氏が開会式を宣言し設立趣旨について説明した。李所長は自称「東北アジア人」と言いながらその役割を、「多言語・多文化の優位性を活かし、国家や民族を超えて」の「ブリッジ」と解釈しつつ、グローバル時代の様々な課題に直面している世界においてこそ、「ブリッジ」としての「東北アジア人」が必要だと訴えた。引き続き、同研究所理事長平川均が挨拶した。同研究所の発足経緯を説明し、「北東アジア地域の相互理解、平和と繁栄に向けた、さまざまな活動と研究を行う」という研究所の目的を述べた。
引き続き、役員紹介および顧問・理事の挨拶が行われ、最後に李所長による研究所の財務に関する説明と閉会の辞が述べられた。
午後は同研究所主催、北東アジア学会（北陸地域研究会）共催の第一回国際シンポジウムが開催された。統一テーマは、「激動の東北アジア時代を如何に乗り越え、平和と繁栄の未来を切り開くか」であった。
李所長が総合司会を務め、平川理事長と三村光弘・北東アジア学会会長・INAF理事が開会挨拶を述べた。
第一セッション、基調講演では、佐渡友哲同研究所理事が司会を務め、平川均理事長により、「構造転換する世界経済と新段階のアジア地域統合」をテーマに講演した。東アジア経済圏の誕生と地域統合、変わるアジアの発展メカニズム、中国の新たな戦略と国際秩序の揺らぎ、グローバリゼーションへの逆風について述べられた。
次に、羽場久美子・青山学院大学国際政治経済学部教授・INAF副理事長により、オンラインで講演したが、「21世紀、米・中・EU、どこが新世界秩序をリードするか、『ヨーロッパの歴史的・世界的意義とレジリエンス（回復力）』」をテーマとした。欧州の戦争と紛争の歴史を踏まえ、「不戦共同体」の理念がいかに生まれ、パワーシフトの21世紀において欧州はいかに「規範力」を発揮して経済危機、難民危機へ対処するかという欧州のレジリエンス（回復力）を分析した。
第二セッション、若手研究者報告では、佐渡友哲理事が司会を務めた。第1報告は、松島新・北陸大学経済経営学部生が「チェンマイ・イニシアディブ（CMIM）がアジア経済の安定に果たす役割」について報告した。CMIMの役割をまとめ、2020年以降のCMIMの最新の動向を紹介した。第2報告は杜世鑫・青山学院大学グローバル国際関係研究所特別研究員・INAF研究員が「北東アジア地域協力におけるヨーロッパの関与と役割」をテーマに報告した。ハンガリーとドイツの一次資料を使い、吉林省で開催された北東アジア博覧会におけるヨーロッパの関与を、ハンガリーとドイツの事例から分析した。
若手研究者の報告に対し、朱永浩・福島大学経済学部教授・INAF理事、川島哲・金沢星稜大学経済学部教授・INAF理事、三村光弘・ERINA主任研究員・INAF理事が討論した。若手研究者の研究に対する討論者の論点は、1）先行研究を踏まえて論じること、2）エビデンスに基づいて論じること、3）事例選択の理由をきちんと説明すること、と締めくくられる。
第三セッションは、同研究所の理事を務める東北アジア諸国出身の第1戦で活躍するベテラン研究者による報告が行われた。三村光弘理事が司会を務め、第一報告では、朱永浩理事による「一帯一路・RCEPが東北アジア地域経済協力に及ぼす影響～中国の視点を中心に～」をテーマにした報告。一帯一路・RCEPと今後の東北アジア経済の特徴を、「中国の東北アジア経済連携と一帯一路」、「中、蒙、ロ経済回廊と朝鮮半島・日本との連結性強化」、RCEPの締結は中国にとって「国際経済秩序の構築を狙う重要な一歩」として分析した。
第二報告では、エンクバヤル理事が「モンゴルと北東アジア諸国との貿易について」をテーマとして報告した。モンゴルの貿易に関するデータを示し、モンゴルの貿易の「低付加価値の原料の輸出」、「中国とロシアに対する貿易の依存」などの特徴を分析し、モンゴルは「貿易構造の多様性」の必要性を提言した。
第三報告では、朴在勲理事が「朝鮮民主主義人民共和国における『経済改革』の現状と課題」をテーマに報告した。年表とデータを示しながら、朝鮮の「経済改革」の沿革、成果、問題点を分析し、朝鮮の「理念としての自主、自立、自衛」と、「北東アジアの一員としての自覚、全方位的協力に対する期待、参加の意志」を展望した。
第四報告では、アンドレ・ベロフ理事が「ロシアと北東アジア諸国との経済交流――日ロ経済関係を中心とし――」をテーマに報告した。2012年から2021年までのロシアの経済政策を、「東方シフト政策」や、「大ユーラシア経済圏」などを中心に分析した。
第五報告は、川口智彦理事の「北朝鮮と東北アジアの国際関係」をテーマとした報告。2017年から2021年までの北朝鮮の核・ミサイル開発と朝米関係、米中関係について時系列に分析し、日朝関係について、朝米関係を踏まえ、日本独自の対応の限界を指摘した。
第三セッションの報告に対し、総合討論が行われた。三村光弘理事が司会を務め、佐渡友理事、菊池嘉晃・読売新聞富山支社長、李所長、平川理事長、、穆尭芊・北東アジア学会事務局長、松野周治・北東アジア学会前会長、金美徳・多摩大学教授など、会議参加者の全員による活発な討論が行われた。
最後に、閉会式では、李所長により閉会の辞が述べられ、東北アジア地域協力への展望と、今後の研究活動の開催と若手研究者の育成について熱意を語った。
夜は会場にて懇親会が行われ、コロナ対策をしっかりした上で、李所長の奥さんが作った家庭料理を堪能しながら歓談した。羽場久美子副理事長は大学での仕事を終えた後に駆けつけて皆さんと歓談しながら懇親会を盛り上げた。
翌日28日は、INAF研究所は会議参加者のために、能登半島エスカーションを主催し、コロナ対策のうえで、2台の自家用車に分乗して、輪島朝市の体験をした後、美味しい日本海魚の刺身割烹料理を堪能し、午後は石川県輪島漆芸美術館、白米千枚田などを見学しながら研究所仲間同士の交流を深めた。